前記事でコンクリート投入口の探索を行った後、ドライブウェイを歩いて歩いて大竜寺→奥笹谷斜坑→市が原→分水隧道前といったルートを歩いた。この間で過去に調査した物件の現在の様子も確認しに行ったわけだが、奥笹谷斜坑はレポ当時と何も変わっていなかった。
斜坑広場に不気味に口を開けるダム作業用トンネルに関しては、今回反対側坑口を探索しようと思ったが、最も接近できる場所(分水隧道の少し先)はフェンスが張られ、乗り越え禁止の看板があったので自重した。航空写真では反対側坑口が確認できるだけに惜しい・・・(他に辿りつく道は無いと思われる)。
以上の観察をしながら、新神戸ロープウェイの風の丘中間駅に着いた。ここからロープウェイで山麓まで降りる予定だ。
この駅はロープウェイには珍しい中間駅である。といっても姥子駅のようにロープの方角を変えるわけでもなく、単純に旅客の利便を図った中間駅である。
ロープウェイに乗った理由は、このロープウェイが表題の換気塔のすぐそばを通るはずだからである。
新神戸トンネルには記事冒頭のリンクの通り、3か所の換気斜坑があるが、実はそれだけで換気しているわけではなく、新神戸寄りのトンネル内には「布引地下換気所」という換気所があり、そこには竪穴が掘られ、換気塔が立っている。
この換気塔は新神戸トンネル鳥瞰図にも載っておらず、地図を航空写真にして見て初めて存在が分かるほど周囲に溶け込んでいるため、ロープウェイから見えるか試して見たわけである。
そして結果は
そして結果は
・・・。
・・・見えませんでした。
換気塔を探しに、駅裏手の登山道を登る。途中刈払いされている箇所があり、発着する新幹線を見下ろすことが出来た。右手が神戸トンネルである。
換気塔に辿りつくには、このあたりで登山道を離れ、山の中へ入っていく必要がある。谷筋に沿って登っていくと、やがてモーターの音が聞こえてくる・・・。
ブルーシートが掛けられた謎の物体の先に、細長い塔が見えてきた。しかしこんなところに?というほど急峻な地形の先にある。
枝を頼りにしながら道無き道を登攀する。
着いた。
これが布引地下換気所の排気塔である。
そして「排気」というからには「送気」もある。3箇所の斜坑が全て2本掘られていたのと同様に、ここの換気塔も2本ある。その送気塔はさらに高い場所にあった(枠内)。思わず「マジかよ・・・」と思った。
ここまでの何回かの写真で判断していただきたいが、ここは本当に凄い場所にある。車道はおろか歩道も通じていない場所である。新神戸駅からは直線距離で数百メートルだが、何でこんな場所にというほど辺鄙な場所だ。
そんな場所にある巨大構造物に惹かれているのが私なのだが・・・。
また、塔の周りもほとんど整備されておらず、平坦なコンクリ床の面積も少ない。塔を一周するだけでも人ひとり分くらいの隙間を抜ける必要がある。
塔の最奥部には有刺鉄線の柵が切れて扉になっている箇所があった。ここが本来の出入り口(?)なわけだが、ここから出ても谷筋に降りれるだけで、元の登山道に戻るためには崖を飛び降りねばならない(後述するが、そもそもこの塔は、辿り着いても中に入れない)。ちなみに写真奥の崖を登攀すれば、ロープウェイの下を潜って堰堤に出る、上級者向きの登山道らしい。
排気塔のあるこの場所から送気塔のある場所までは、コンクリで固められた斜面に沿って梯子がかかっている。酷い腐食は無さそうなので、これを使わせていただく。季節柄、毛虫が何匹か梯子にくっついていた。
送気塔の前に立つ。ここも負けず劣らず塔周りが狭い。また、排気塔の周りにはあった柵も無い。とっても、こんなところまでわざわざ来る人はそうそう居まい。
もう塔の断面積+αしかない周囲の広さ。この塔も一周するのに苦労する。
なお送気塔は排気塔と異なり、全周レンガ作りである。逆に排気塔は一部金属部がむき出しになっているが、この違いに何か意味があるのだろうか。
送気塔も高さは低い。これ以上登る気もしないので、ここがたどり着いた最上階となった。
送気塔から望む排気塔。両者はこんな位置関係である。
なおスペックだが、どちらも塔の直径は3.5m、深さは排気竪坑が56.15m・送気竪坑が67.95mとなっている。換気所本体は当然地下にある。
排気塔のズーム写真。これらの塔はどちらも扉や窓などはなく、中に入ることは不可能である。工事用道路も作れないこれらの塔はどうやって作ったのかと言うと、新神戸トンネル本坑、つまり中からコンクリを送り出し、また外からの資材は工区基地より索道を使って塔上部まで運搬したという。
ここはトンネル工事のために掘った竪坑ではなく、トンネルを掘った後から換気のために内部から作った竪坑なのである。
他の例では、長大トンネルで有名な「関越トンネル」の換気塔も同様に内部から施工されているため、周囲に取り付け道路が作れないほどの山の中にある。
ふたたび梯子を辿って、斜面を滑降して登山道に戻った。改めて足元を見ると靴の上に毛虫やら尺取虫が結構乗っていた。彼らを帰りの電車に乗せるわけには行かないので、念入りに払い落としてからこの場を去った。
最後に。塔のすぐ近くに確かにロープウェイは通っていた。写真の左が排気塔、右の枠内にロープウェイの搬器が見えている。
こうして見ると確かにロープウェイ側からも見えそうな感じがしたが、再度乗車して確かめる気にはならなかった。乗客もわざわざこんな穴を見ずに、神戸市街地や布引の滝を見ていることだろうが、もしロープウェイに乗車する機会があれば、ここに変な穴が2つあることに注目してもらいたいと思う(一瞬なのでよほど目を凝らさないと発見は難しいかと)。
なお本レポのような徒歩での塔への接近は、あまりオススメしない。