踏切が見えてきた。
入場ゲートのような高さ制限バーがあるのは、この先の橋の主塔を潜るためである。
ここは大井川鉄道井川線の「アプトいちしろ」駅に隣接した踏切である。なお、井川線には警報機・遮断機の揃った第一種踏切は片手で数えられるほどしかなく、そういった意味でも貴重な踏切である。
この踏切は井川線の特徴の一つであるアプト式機関車が通過することもあり、井川線では構内踏切を除いて唯一電化されている踏切である。
写真の機関車がアプト式機関車のED90型である。アプト式についての詳しい説明は省くが、線路間にあるラックレールを車両側のピニオンギアで噛みこんで、急坂を上るラック式鉄道の一種である。
写真右奥に本来の井川線列車が停車しているが、ED90型はこの列車に連結して、最大90‰の急勾配をアシストしている。
アプト式機関車は車輪間の床下中央部にギアをもっているため、普通鉄道では使用しない特殊なポイントが使用されている。
写真は千頭方面を見たもので、本線は直線、右側は機関車の留置線である。ポイントの線路間中央部が開いているのがわかる。車両側の支障物が線路間にあるのはケーブルカーも同様であるが、アプト式の場合は急勾配区間だけにラックレールを設ければいいので、ポイント部や踏切部にラックレールは設置されていない。
同様に井川方面。奥に駅と、ED90型用の機関庫が設けられている。右側の赤い屋根の建物が駅舎である。
そしてこの踏切の大きな特徴として、この敷板が挙げられる。
ポイント部と同様、ピニオンギアが通過する線路間中央の部分が凹んだ敷板である。
この踏切はクルマで通ることが出来る(後述)が、たまたま通ったクルマを見ていたところ、その際の振動は半端ないものだった。
日本全国にはカーブにある踏切で「かまぼこ型踏切 通行注意」と書かれた踏切が見られるが、ここはまた別の意味でボコボコ跳ねる踏切と言える。
こちらはすぐ横のアプトいちしろ駅の構内踏切。当然歩行者専用で、ここも中央が凹んでいる(隣駅の長島ダム駅にも構内踏切がある)。
アプト式機関車はここと長島ダム駅を往復するだけなので、同機関車が通る踏切で、かつクルマで通過できる踏切は市代踏切だけとなる。
市代踏切に戻って周りの様子を観察してみる。
踏切脇にはわずかな電化区間の為の市代変電所がある。この正面の道を抜けて、奥の壁を左に曲がれば、井川線旧線を使用した遊歩道が長島ダムまで繋がっている。ただし旧トンネルは照明が無いので注意が必要。
踏切を渡ると間髪入れずにこの橋となる。ここは大井川ダムに通じるもので、同ダムは大井川水系でも歴史が古く、井川線の前身はこのダム建設のために作られている。
したがってこのダムへの橋はダム管理の中部電力の専用橋と言えるもので、中部電力関係者以外は渡っても行き場は無い(立ち入り禁止の柵等は周辺には無いので、歩行者として渡りきることは出来ると思うが、自分はここで引き返している)。
なお、ここアプトいちしろ駅は林道市代線のみに繋がっており、駅脇の林道を抜ければ長島ダム方面に抜けられるが、林道入口の看板によると関係者以外通行禁止になっているため、実質中部電力と大井川鉄道の関係者、そして道中にあるキャンプ場への関係者以外はクルマでここに来ることは出来ない。
以上のことより、意味もなく自家用車等でやってきてわざわざ踏切を渡る行為は止めた方が良い(私が踏切を渡っているのを見たのは、中部電力関係者のクルマのことである)。
以上のことより、意味もなく自家用車等でやってきてわざわざ踏切を渡る行為は止めた方が良い(私が踏切を渡っているのを見たのは、中部電力関係者のクルマのことである)。
振り返って踏切を見る。主塔で隠れているが遮断機がちらっと見え、左側には駅舎と機関車も見える。
踏切脇には遮断機が捨てられて(?)いる。市代踏切本体も遮断機更新を受けているようなので、この中にはその更新前の遮断機も混ざっているのかもしれない。
最初の写真にあった高さ制限バーの裏側はこんな感じだった。前述の通り大井川ダム方面から来る観光客は居ないはずなので、これは長島ダムから遊歩道を歩いてきた観光客向きと思われる。列車の色が三岐鉄道の機関車の色であるが、気にしたら負けかと思う。